生殖補助医療~進歩した不妊治療

Doctor:
齊藤英和

国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター

生殖補助医療の種類

タイミング法や人工授精、卵管の治療など、一般の不妊治療で妊娠に至らない場合に、卵子・精子を体外で受精発育させたのち、子宮に戻す治療方法で妊娠を試みることがあります。この治療法を生殖補助医療(せいしょくほじょいりょう)といいます。現在この治療法は「体外受精」「顕微授精(けんびじゅせい)」「凍結融解胚移植(とうけつゆうかいはいいしょく)」の3つに分け治療統計が作成されていますが、これらは、一連の治療です。体外受精で受精した胚がたくさんある場合には、いくつかの胚(受精卵)を凍結保存し、妊娠出産を希望した時期に融解し子宮内に戻すのが凍結融解胚移植法です。体外受精では洗浄した精子を卵子の周りに振りかけるだけで受精を促しますが、精子の数がとても少ない人には、卵子の中まで精子を注入する方法を用いて、精子と卵子を合わせます。これを顕微授精といいます。精子は基本的には男性が自分の手で採取した精液を洗浄して用いますが、精液中に精子がいない場合、この方法は使えません。精巣にはわずかながら精子がいる場合があり、この精子を手術で取りだし「顕微鏡下精巣精子採取法卵子」に顕微授精する方法もあります。治療は複雑なので、パートナーとふたりで受診し、よく説明を聞くことをおすすめします。

治療の流れ

最初に、妊娠を希望している女性にホルモン剤を用いて卵胞(らんぽう)刺激を行い、複数個の卵胞(卵子を含む袋)を発育させます。発育してくる卵胞数は個人によって差がありますが、一般に年齢が若い人ほど、数が多く育ちます。数を少なく育てようとする考え方もあります。卵胞が十分大きくなったら、採卵します。経腟(けいちつ)超音波診断装置を用いて、腟(ちつ)から卵巣にある卵胞に針を刺して採卵します。男性が採取した精子を洗浄した後、採卵された卵子といっしょに合わせます。採取された精子が少ない場合は顕微授精法で、精子と卵子を合わせます。翌日(1日目)は受精を確認します。卵細胞質内に2つの前核(ぜんかく)(ひとつは精子から、もうひとつは卵子からの遺伝情報を含みます)が確認できれば、これを正常受精卵と判断します。受精卵はさらに培養(ばいよう)され、2日目には4細胞、3日目8細胞、4日目桑実胚(そうじつはい)、5日目胚盤胞(はいばんほう)に発育します。これらのどの時期でも子宮内に移植できます。5日目の胚盤胞期胚の移植を胚盤胞移植と呼びます。移植する数は原則1個と決まっていて、残りは凍結保存します。1個移植を何回繰り返しても妊娠しない場合は、最大2個移植する場合があります。移植後の黄体期にはホルモンを補充を行います。採卵日から数えて14日以降も月経が再開しない場合は妊娠反応を測定し、妊娠しているかを確かめます。凍結融解胚移植(とうけつゆうかいはいいしょく)の場合は、超急速凍結法を用いて凍結しておいた胚を融解し、胚の発育段階と子宮の内膜の状態を合わせて、ちょうどいい日に胚を子宮内に戻します。子宮の状態は自然周期を用いたり、女性ホルモンを用いたりして、人工的に調節し、その子宮に胚を移植します。

妊娠する可能性は高いの?

現在、「新鮮胚(しんせんはい)治療」である体外受精や顕微授精(けんびじゅせい)の妊娠出産成績より、「凍結融解胚移植」の成績のほうが高くなっています。これには2つの理由が考えられています。新鮮胚治療では、卵胞(らんぽう)を複数個発育させるためホルモン値が高く、この影響で子宮内環境が胚の着床には少し障害となること。もうひとつは、胚を凍結保存する場合、融解胚移植するときに妊娠可能と評価できる胚しか凍結保存しないという、胚の選択が行われているためです。また、成績は年齢の影響がとても大きく、32歳ぐらいまでは治療開始あたりの生産率(赤ちゃんが生まれる率)は約20%ですが、それより高齢だと緩やかに下降し、36歳ぐらいから下降率は大きくなります。40歳では約7~8%が治療開始あたりの生産率です。45歳では1%を割ります。

いくらかかるの?

自費診療なので施設ごとに異なります。1回あたりの体外受精、顕微授精の治療は約30~60万円ぐらいです。凍結融解胚移植治療は15~25万円ぐらいです。年齢制限や所得制限はありますが、特定不妊治療費助成制度を申請することができ、それに加えてさらに助成制度を充実させている自治体もあります。

治療の限界

女性の年齢が、成績に大きく影響します。40歳以上の高齢だと、出産に至るまでの治療回数は大半は3回までです。それを超える場合は成功率は低下します。男性の場合、精巣に精子がいない場合は夫婦間の生殖補助医療(せいしょくほじょいりょう)は困難です。

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