出生前診断はどのような場合に受けますか?

Doctor:
下平和久

昭和大学大学院保健医療学研究科

出生前診断は、誰にでも関係のある問題です

出生前診断とは、赤ちゃんが生まれる前に、その赤ちゃんについての情報を知ることをいいます。たとえば、「男の子か女の子か」「外見に変わったところがないか」「心臓などに異常がないか」、さらには「将来に重い病気にかかる可能性がどのくらいあるか」など、いろいろな情報が含まれます。妊婦健診で病院に行くと超音波検査を行いますが、これで赤ちゃんのからだの異常が発見される場合もあります。このように、妊娠すれば、誰でも多かれ少なかれ出生前診断に関わることになるわけです。

赤ちゃんの病気がすべてわかるのですか?

赤ちゃんの3~5%には、なんらかの先天性疾患(しっかん)(病気)があります。これにはいろいろな原因がありますが、約25%が染色体の異常によるものです。現在の出生前診断は、この染色体異常について調べることと、超音波などによって赤ちゃんの形の異常を調べることが中心です。「赤ちゃんの病気の一部がわかるだけ」と考えてください。

知る権利と知らない権利

たとえば赤ちゃんに大きな病気があり、生まれてすぐに医学的な治療を開始しなければならない場合があります。このようなことをできる限り調べて、対策を立てておくのがいいという考えもありますが、怖いことはなるべくぎりぎりまで聞きたくないという意見もあるかもしれません。お父さん、お母さんによっていろいろな意見があると思いますが、知る権利と知らない権利、どちらも大切な権利です。どちらの権利をどのくらい行使するのか、妊娠する前から家族でよく話し合っておきましょう。

出生前診断の手法と特徴

検査は大きく分けて、赤ちゃんの疾患の可能性を推定する「非確定的検査」と、正確に診断するための「確定的検査」があります。非確定的検査には、超音波画像やお母さんの血液などを使用する、侵襲(しんしゅう)の少ない検査が多いのに対し、確定的検査は、お母さんのおなかに針を刺して赤ちゃんの付属物(羊水(ようすい)、絨毛(じゅうもう)を採取するなど、侵襲性が高い検査が含まれます(各検査の実施時期は高齢妊娠のリスクについて参照)。

① 超音波断層法
現在の産科健診は、超音波によって赤ちゃんの状態を確認しながら行うのが前提となっています。施設によって内容は異なりますが、超音波断層法は、すべての妊婦さんが受けることになります。一般的な超音波の検査でも、赤ちゃんの発育状態や男女の診断だけでなく、からだの大きな異常が見つかる場合があります。すべての妊婦さんは、妊婦健診を行うときに、普通の健診でも赤ちゃんに異常が見つかる可能性があることを知っておきましょう。施設によっては、一般的な超音波検査を行う前に上記のようなことを説明して、赤ちゃんについてどこまで知りたいか、承諾書(しょうだくしょ)の形でサインを行ってから超音波検査を行う場合もあります。また、希望すればさらにくわしくからだの異常を見つけたり、染色体異常の確率を推定する超音波検査を提供している施設もあります。

② 母体血清マーカー検査
お母さんの血液をとって、その中のホルモンなどを何種類か測定して、赤ちゃんの染色体異常の可能性を推定する検査で、15週頃から可能です。侵襲的(しんしゅうてき)な染色体検査を受けるかどうかの参考として、希望するかたが受ける検査と考えていいでしょう。

③ 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査(NIPT)
お母さんの血液に混じっている、赤ちゃん由来のDNA成分を分析して、赤ちゃんの染色体異常を推定する技術です。妊娠10週以降で検査可能であり、上記の母体血清(ぼたいけっせい)マーカーに比べて精度が高く、また、次項の羊水検査(ようすいけんさ)などに比べて母体・胎児(たいじ)への侵襲が少ないので、現在注目されています。35歳未満の妊婦さんでは疑陽性(ぎようせい)が多くなる点など、臨床(りんしょう)への適応についてはまだ検討すべき問題があるので、日本では現在「臨床研究」という形で行われています。すなわち、研究に参加していただける妊婦さんに対して、登録された医療機関でのみ、有償で行われています。

臨床研究施設一覧 : http://jams.med.or.jp/rinshobukai_ghs/facilities.html

④ 羊水検査、絨毛検査
お母さんのおなかに針を刺して、赤ちゃんを包んでいる羊水を採取して、その中に混ざっている赤ちゃんの細胞を集め、培養(ばいよう)して染色体の数を調べるのが羊水検査です。15週以降に可能になりますが、それよりも早い時期に診断を行う方法として、胎盤を構成する絨毛細胞を穿刺(せんし)吸引(注射器で細胞などを採取すること)して検査を行う絨毛検査(じゅうもうけんさ)があります。いずれも、染色体の数を直接数えることができるため、染色体異常については、現在もっとも精度の高い検査と考えられています(染色体の細かい欠損など、この検査ではわからない染色体の異常も存在します)。お母さんのおなかに針を刺すため、流産、早産といった産科的な異常がおこる可能性があり、(羊水検査で1/300程度、絨毛検査で 1/100程度)、検査について充分に理解した人のみが行うべき検査です。上のお子さんに染色体異常がある、お母さんが35 歳以上、といった理由で行われるほか、上記の超音波、血清(けっせい)マーカー、NIPT などで疾患が疑われた場合に、確定的検査として行われます。