お産ってどう進むの?

Doctor:
増崎英明

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科産婦人科学

お産(分娩(ぶんべん))とは、痛みをともなう規則的な子宮収縮(陣痛(じんつう))が始まってから胎盤(たいばん)が娩出(ばんしゅつ)されるまでのことです。通常、陣痛が10分ごとになったときを分娩開始としています。多くの妊婦さんは自然に陣痛がおこり、お産になります。お産に際して、妊婦さんのお手伝いや陣痛を和らげるように協力するのが、助産師さんです。分娩の経過中に母体に異常が生じた場合や、胎児(たいじ)が元気でなくなった場合などは、なんらかの処置が必要になります。このような処置は産科医の管理のもとに行われます。お産は太古(たいこ)から続く自然現象ではありますが、まれに順調に進まないことがあります。分娩経過の異常を速やかに発見し、できるだけ正常に戻るように、母児ともに安全に経過するように管理することが、助産師と産科医の役割です。

お産の経過

陣痛が始まると、胎児は子宮口に向かって圧迫され、子宮口が開き始めます(子宮口の開大)。子宮口が3~5cm 程度開くまでは比較的ゆっくりですが、それ以降の子宮口の開大は急速です。子宮口が完全に開いた状態になることを「子宮口の全開大」といいます。胎児を娩出しようとする陣痛に、母体の「いきみ」が加わると、胎児が母体から娩出されます。胎児が娩出された後に胎盤が娩出されます。

初産婦と経産婦の違い

お産の経験のない妊婦さんは初産婦(しょさんぷ)、経験のある妊婦さんが経産婦(けいさんぷ)です。初産婦と経産婦では分娩の進み方に差があります。一般に、初産婦の分娩所要時間は分娩開始から12~16時間、経産婦では5~8時間程度です。分娩経過にはかなりの個人差があり、初産婦で30時間、経産婦で15時間までは正常範囲とされています。初産婦のお産はおよそ半日から1日仕事、経産婦では初産婦の半分程度になります。

胎児と新生児

分娩経過中は胎児の心拍(しんぱく)や陣痛の程度を機械的に記録し、分娩の評価を行います。胎児の元気が乏(とぼ)しいと診断された場合は、医師による介入が必要になります。胎児は、母親のおなかの中で胎盤からへその緒(お)を通じて酸素や栄養をもらっています。出生後(新生児(しんせいじ))は自分で呼吸して酸素を取り込み、心臓の力で全身に血液を送る必要があります。へその緒(臍帯(さいたい))は生まれた後、まもなく切断されます。新生児期は、母親のおなかの中で行っていた母親と胎盤に依存した呼吸から、自分の肺を使っての呼吸に移行します。もし呼吸や心臓の機能が不十分だったりするときは、速やかな対応が必要です。産科医だけでは難しいようであれば、新生児専門の医師のいる施設に搬送する場合もあります。

分娩の異常

頻度(ひんど)の高い分娩異常(ぶんべんいじょう)として、胎児(たいじ)の位置や分娩進行の異常があります。通常、胎児は頭を先にしてお産が進みます。この場合を「頭位(とうい)」といいます。お尻や足が先になる場合は「骨盤位(こつばんい)(逆子(さかご))」であり、現在では、帝王切開による分娩が行われます。分娩の進みが遅くなることを遷延分娩(せんえんぶんべん)といいます。陣痛が弱い「微弱陣痛(びじゃくじんつう)」、胎児が産道を上手に通過できない「回旋異常(かいせんいじょう)」、胎児と母親の骨盤の大きさや形と胎児とがうまくかみ合わない「児頭骨盤不均衡(じとうこつばんふきんこう)」などが、遷延分娩の原因となります。お産の進みが悪い場合は、帝王切開を行うか、妊婦さんの了解を得た上で子宮の収縮を促す薬剤を使用することがあります。

帝王切開による分娩

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次のような場合、帝王切開での分娩が選択されます。胎位(たいい)の異常や、児頭骨盤不均衡など、経腟分娩(けいちつぶんべん)が困難と判断された場合。また、心肺異常などがあり、経腟分娩が母体にとって危険な場合、胎児の元気が乏しい場合にも、帝王切開を行います。帝王切開の既往(きおう)がある場合や、子宮手術の既往があり子宮破裂の危険性がある場合も帝王切開を選択することがあります。

会陰切開とは

会陰切開(えいんせっかい)とは、胎児の娩出(ばんしゅつ)前に会陰を切開することです。胎児が大きくて難産(なんざん)が予想される場合や、吸引分娩や鉗子分娩(かんしぶんべん)を行う場合、骨盤位分娩の場合などは会陰切開が行われることが多いようです。初めてのお産は自然に会陰の裂傷(れっしょう)を生じることが多く、予防的に会陰切開を行うこともあります。分娩の介助法は、施設によっていくらか差異があるので、事前に確認しておくといいでしょう。

For Men

夫がしておくべきことと、立ち会い出産に向けた心構え

多くの妊婦さんは妊娠40週前後に自然に陣痛がおこりますが、出産予定日より早い時期に急にお産になったり、入院が必要になることもあります。入院に必要な物品をすぐに持ちだせるように、男性はパートナーと相談して、事前に物品の準備をしておくことが大事です。子どものいる家庭では、世話ができる環境を整えておく必要があります。妊娠中は不安に思うこともたくさんあるでしょう。妊婦さんを精神的にサポートすることもまた、夫の大切な役割です。立ち会い出産は、我が子の誕生の瞬間とその感動を夫婦で共有することができます。しかし、お産は決して楽なことではありません。出血が多くなったり、緊急での対応が必要になることもあります。男性によっては想像を超えた場面に遭遇し、精神的に苦痛となる人もいるかもしれません。夫婦で事前に話し合い、立ち会い出産をするかどうか事前に決めておくことをおすすめします。経験談を聞くこともいいでしょう。