セックスレス

Doctor:
大川玲子

国立病院機構千葉医療センター

セックスレスは「病気や単身赴任(たんしんふにん)など特別の事情がないにも関わらず、カップルの性的行為(性交に限定せず)が1カ月以上ない状態」を指します(日本性科学会定義)。それ自体が異常とはいえませんが、少なくとも一方がその状態に不満や苦痛を感じる、あるいは性機能障害があって、2人の関係性に問題が生じている場合は、治療やなんらかの解決がほしいものです。

男女の性反応の違い

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性反応には次の3つの段階があります。

1.性欲:セックスしたい気分になる

2.性的興奮:男性では「勃起(ぼっき)」、女性では性器が濡れる(腟潤滑液(ちつじゅんかつえき)の流出)などの生理反応と、主観的な心地よさ

3.オルガズム:男性では射精(しゃせい)。女性では、興奮で緊張した骨盤底(こつばんてい)筋肉群が、ピーク感を経て元に戻るリズミカルな収縮運動です(その意味では男性と同じ)これらの反応は、性欲→性的興奮→オルガズムと連続的に進みますが、女性では性反応の始発点とされる「性欲」の部分があいまいです。女性は、自然におこる性欲(セックスしたい気分)もありますが、親密なパートナーから好ましい性的刺激を受ければ、それに応じて性的興奮状態が導かれることもあります。つまり女性の性欲と性的興奮は分ち難いというのが、最近の考え方です。

性機能障害とその治療

上述の性反応の考え方をもとに、女性の性機能障害を「性的関心と興奮の障害」「オルガズム障害」そして「性器・骨盤部痛(こつばんぶつう)/ 挿入障害」と分類します。性反応の障害は、血管、神経、筋肉の障害でおこるほか、心理的要因があります。性心理学的治療法は確立されていますが、女性は性機能障害の原因にも治療にもパートナーの影響が大きいことが知られています。性交痛は女性特有といってよく、多くの婦人科疾患(しっかん)も原因となります。女性はパートナーの性的満足のために、「痛み」を我慢し、「快感」をあきらめ、その結果セックスが嫌になり、セックスレスという双方に不幸なことになりがちです。女性の性機能障害研究は、これまで心理的な側面が強調され、医学的な取り組みが遅れていました。男性の勃起障害(ぼっきしょうがい)のように、有効な薬物が提案されていないこともその要因です。しかし閉経(へいけい)後の性交痛に対する女性ホルモン療法は、一般的になりました。最近は婦人科がんや乳がん、その他婦人科疾患、全身疾患やその治療による性機能障害について、多数の研究報告がみられます。心理的性治療のできる医師も今後増えると思われます。