若い女性のトラブル②子宮内膜症

Doctor:
北出真理

順天堂大学産婦人科

子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)とは、子宮の内側に存在するはずの子宮内膜と似た組織が、子宮以外の別の場所にみられる病気です。厚くなった子宮内膜は子宮からはがれて月経となりますが、その組織の一部が月経血と共に腹腔(ふくくう)内に逆流し、腹膜(ふくまく)や卵巣(らんそう)の表面に生着(せいちゃく)して発症するといわれています。骨盤(こつばん)内に生着した子宮内膜組織は月経のたびに出血し、慢性炎症(まんせいえんしょう)により子宮や卵巣、腸などの周囲に癒着(ゆちゃく)をおこし、痛みや不妊(ふにん)の原因となります。

将来の妊娠のためにも治療を

女性ホルモンにより進行する子宮内膜症は、近年の晩産化・少産化というライフスタイルの変化にともない確実に増加しています。女性の一生の月経回数は、20年以上前と比べて圧倒的に多く、長期にわたって女性ホルモンにさらされるため、現代は女性が子宮内膜症になりやすい環境であるといえるでしょう。子宮内膜症による主な症状は、さまざまな痛みと不妊(ふにん)です。痛みの中では月経痛がもっとも多く、性交時痛や排便時痛(はいべんじつう)、下腹部痛や排卵痛(はいらんつう)などもあります。また子宮内膜症の30% ~ 50% が不妊症であり、卵管周囲癒着(ゆちゃく)や排卵(はいらん)・受精障害などが原因と考えられています。また卵巣チョコレート嚢胞(のうほう)(卵巣に古い血液がたまり、チョコレート色になったもの)にともなうリスクとして、がん化や破裂、感染(かんせん)等があります。

治療法には、主に薬物療法と手術療法がありますが、嚢腫(のうしゅ)の大きさや症状、将来的に妊娠を希望するかどうかによって治療法が異なります。薬物療法には低用量ピル(エストロゲン/ プロゲスチン配合剤)や黄体ホルモン製剤(ジェノゲスト)、GnRH アゴニスト(注射剤/ 点鼻薬(てんびやく))などがあります。一方、手術療法には病巣(びょうそう)のみ摘出(てきしゅつ)する温存手術と、卵巣や子宮を摘出する根治手術があり、それぞれ開腹(かいふく)手術と腹腔鏡(ふくくうきょう)下(か)手術が選択できます。最近では、傷が小さく社会復帰の早い腹腔鏡下手術が人気です。腹腔鏡下手術は腹部に小さな穴を数カ所あけ、モニターに映った映像をみながらカメラと鉗子(かんし)(ハサミに似た、つかんだり引っ張ったりする手術道具)を用いて行う手術です。手術には即効性がある一方で、繰り返すと卵巣機能の低下や術後癒着のリスクがあるため、ホルモン療法で術後の再発予防を行うなど、手術回数を減らす工夫が必要です。

月経困難症の女性は子宮内膜症になるリスクがやや高いのですが、低用量ピルの早期の服用が子宮内膜症を予防する可能性も報告されています。思い当たる症状があったらまず産婦人科を受診して早めに手を打つことが、子宮内膜症の発症や進行を遅らせる重要なポイントです。