高齢妊娠のリスクについて

Doctor:
澤倫太郎

日本医科大学女性診療科・産科

社会における女性の進出や活躍は喜ばしい限りです。一方で女性の晩婚化(ばんこんか)や生殖補助医療(せいしょくほじょいりょう)(不妊治療)の発達により、高齢妊娠の頻度(ひんど)が高まっています。日本産科婦人科学会では35歳以上の初めての妊娠を「高齢初産」と定め、妊娠初期から十分な妊婦さんの管理が必要であるとしています。

妊娠は、ひとりの女性のひとつのボディに2つ(あるいはそれ以上)の生命が宿っている状態です。女性のからだにはこの状態を許容する予備の能力が備わっていますが、加齢により妊娠に対する予備能力は小さくなっていきます。血管に対する負荷をからだが補えなくなると、妊娠高血圧症候群や腎臓(じんぞう)に障害が現れたり、耐糖能(たいとうのう)といわれる糖分を摂取したときの代謝(たいしゃ)能力が弱まって妊娠糖尿病が発症しやすくなったりします。妊娠初期から慎重な管理を行っていても、ときにはこれらの疾患(しっかん)の症状の進行をとめられず、やむを得ず早産で出産したり、帝王切開術による分娩に移行せざるを得なかったりすることも十分考えられます。子宮(しきゅう)筋腫(きんしゅ)などの婦人科疾患の合併率も上昇し、流産や早産の危険性は高くなります。分娩の際も、若い女性に比べ産道の進展性が乏しくなって難産になりやすく、帝王切開率の上昇につながります。

「出生前診断」ってどういうもの?

年齢を重ねた妊娠についてメディアでよく取り上げられるのは、生まれてくるお子さんの染色体の数の異常が多くなる可能性です。生まれてくる前にこれらの異常を診断することを、出生前診断といいます(出生前診断はどのような場合に受けますか?参照)。染色体の異常の確率が高いと判断されると、絨毛検査(じゅうもうけんさ)をしたり15週すぎに羊水検査(ようすいけんさ)を行ったりして確定診断します。妊婦さんの血液中にまぎれこんでいる赤ちゃんのDNA を解析して赤ちゃんの染色体の異常を調べる方法も、臨床(りんしょう)研究として行なわれています。いずれにせよ確定診断のために羊水検査が必要になります。出生前診断は全員が受けなければいけない検査ではありません。高齢妊娠のご夫婦でも、こういった検査を受けない決断をするカップルも多くいらっしゃいます。出生前診断を受けるか受けないか迷ったときは、カップルで専門家によるカウンセリングを受けることをおすすめします。

【出生前診断の種類と時期】

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