リストカットをやめられない…

Doctor:
松本俊彦

独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所自殺予防総合対策センター

リストカットほど誤解されている行為はありません。何も知らない人は、「あれは周囲の関心を引こうとしている」などと言いますが、それはとんだまちがいです。実は、思春期の女性の1 割あまりの人に、リストカットなどの自傷(じしょう)行為の経験があります。しかし、そのうちの9 割以上の人は、隠れてリストカットにおよび、そのことを誰にも告白しません。つまり、リストカットの多くは「秘密の行為」なのです。

どうして「リスカ」しちゃうんだろう…

リストカットを繰り返すのは、怒りや不安、緊張、あるいは恥(はじ)の感情といった「つらい気持ち」をやわらげるためです。実際、リストカットした人は、切った直後に一種の安堵感(あんどかん)を体験しています。しばしばその感覚は、「切るとホッとする」、「気分がスッキリする」という言葉で表現されます。そして、リストカットが持つ、この「楽になる」という効果のせいで、リストカットは癖になりやすいという性質があります。

問題は、リストカットのそうした効果は一時的なものに過ぎないという点にあります。繰り返されるにしたがってリストカットの持つそうした効果は低下してしまい、効果の低下を補おうとしてリストカットの頻度(ひんど)や程度はエスカレートしてしまいがちです。しだいに、以前よりもささいなことでも切らないではいられなくなり、最終的には、「切ってもつらいし、切らなきゃなおつらい」という状態に陥ることがあります。この段階では、切り始めた頃よりも「消えたい」 「いなくなりたい」という気持ちが強くなっているでしょう。

もしもあなたがリストカットをしているのならば、2つお願いがあります。ひとつは、切りたくなったときに、筋トレやランニングで気をまぎらわせたり、あるいは、ゆっくりとていねいに深呼吸を5分以上やってみてください。もちろん、うまくいかないこともありますが、それはそれでかまいません。まず試してみることが大切です。それから、もうひとつは、学校の保健室の先生やスクールカウンセラーに相談してみてください。それがあなたにとって容易なことではないのは理解しています。おそらくあなたは人を信用できなくて、だから、誰にも頼らずに「つらい気持ち」を解決したいのですよね。もちろん、リストカットは一時しのぎとしては最悪な方法ではありません。しかし、あなたの苦しみを根本的に解決する方法ではないのも、また事実です。