若い女性のがん①乳がん

Doctor:
苛原 稔

徳島大学大学院産科婦人科学分野

乳がんは女性にもっとも多いがんです。ライフスタイルの欧米化で乳がんになる女性が急増し、日本女性の15人に1人が、一生の間で乳がんになるといわれています。年間約6万人がかかり、約1万2000人が死亡しています。40~50歳代にもっとも発生しますが、40歳以下や60歳以上でも増加傾向にあります。

乳がんになりやすいのはどんなひと?

乳がんのなりやすさ(リスク)には家族性や民族性、妊娠・授乳(じゅにゅう)の有無(うむ)などが関係します。生活習慣も重要で、肥満(ひまん)、喫煙(きつえん)などは乳がんのリスクを増加させ、運動はリスクを低下させます。脂肪の多い食事は、肥満との関係からリスクが高いといわれています。乳がんの5~10%は遺伝性(いでんせい)といわれています。最近、「遺伝性乳がん卵巣(らんそう)がん(HBOC)」が注目されています(女性のがん、遺伝するの?参照)。BRCA という遺伝子に異常があり、高頻度(こうひんど)に乳がんや卵巣がんが発生する病気です。家族に乳がんや卵巣がんがある場合は、BRCA の異常の有無を調べる価値があります。遺伝カウンセリングが重要ですので、カウンセリング可能な施設に相談してください。

【乳がんになりやすい女性】

  • 年齢(40歳以上)
  • 乳がんの家族歴(特に母娘や姉妹)
  • 未婚・未産女性
  • 高齢初産
  • 授乳していない
  • 初経年齢が早い(11歳以下)
  • 閉経年齢が遅い(55歳以上)
  • 閉経後の肥満
  • 良性乳腺疾患の既往
  • 高脂肪食を好む女性

早期発見するために検診を

直径約2㎝までに早期発見すれば、乳がんはほぼ完治する病気です。早期発見には「乳がん検診」が有用ですので、30歳を越えたら1~2年ごとに定期的に受けることをおすすめします。検診には「視触診(ししょくしん)」、放射線撮影で調べる「マンモグラフィ」、超音波装置を使って調べる「超音波断層法」があり、それぞれ特徴があります。35歳までは超音波断層法を中心に、それ以降はマンモグラフィ中心に受けるのがいいと思います。検診とあわせて自己検診も試みましょう。一カ月に1回、風呂上がりに鏡の前で行ってみてください。

一般的な治療と副作用

手術が可能であれば、切除が第一選択です。必要に応じて、放射線治療、抗がん剤治療、内分泌(ないぶんぴつ)治療を行います。若年者は悪性度が高い場合が多く、抗がん剤治療を徹底的に行う傾向にあります。治療後に再発予防を目的として、数年間女性ホルモンを低下させる内分泌治療が行われます。最近は美容上の観点から乳房の全摘(ぜんてき)を行わず、部分切除と放射線治療、抗がん剤治療、内分泌治療を組み合わせて行う場合が増えています。手術により乳房の一部あるいは全部を失うことになります。最近は、がん切除と同時に乳房形成手術を行う施設が増えています。抗がん剤治療では、卵巣(らんそう)機能が低下して無月経になることがあります。内分泌療法では治療中に更年期(こうねんき)様症状が発生したり、薬剤によっては子宮内膜(しきゅうないまく)がんの発生が増加することがあります。

治療後の妊娠について

乳がんが完治し、卵巣(らんそう)機能に問題がなく、年齢的にも妊娠・出産に適切な場合は、妊娠やその後の授乳(じゅにゅう)は可能です。抗がん剤の副作用による卵巣機能の低下に備えるため、治療前に卵子や卵巣組織を凍結しておくことが考えられます。卵子の凍結(とうけつ)技術は確立していますが、最終的な妊娠率はまだ低いようです。一方、卵巣組織凍結は研究段階にある技術で、妊娠の可能性は不明です。いずれにしても産婦人科医に、妊娠の希望を伝えるなど、相談することが重要です。

自己検診のやり方

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鏡の前で腕を上げ下げしながら、乳房にくぼみやひきつれ、左右の非対称、乳頭にくぼみやただれがないかを確認します。

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3本の指をそろえ指の腹で乳房をなでます。特に乳房の上部外側を念入りに。乳頭(にゅうとう)をつまんで分泌物(ぶんぴつぶつ)がないかを調べましょう。乳房の大きい人は、あおむけに寝て行う方がわかりやすいです。