いいこといっぱい、母乳育児

Doctor:
平松祐司

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 産科・婦人科学教室

母乳には、赤ちゃんにとって大切な栄養素が多く含まれています。母乳を飲ませることが、お母さんと赤ちゃん、どちらにとってもいいことがたくさんあるのがわかっています。

母乳のでるメカニズム

妊娠末期になると、助産師さんに乳房の手当を教えてもらいます。乳首をつまむと、少し黄色をおびた透明な乳汁がでます。これが「初乳」です。赤ちゃんが感染しないように守る、母親由来の重要な免疫グロブリンという物質や、成長因子が多く含まれています。出産後3~4日すると、脂質および糖質が豊富に含まれる成乳に変わります。出生直後の赤ちゃんのほっぺに乳首をふれさせると、反射的に吸いついてきます。赤ちゃんがおっぱいを吸うと刺激がお母さんの頭へ伝わり、オキシトシンという物質が分泌されます。母乳をだしたり子宮を収縮させる働きがあるため、産後の子宮の回復が促進されます。授乳は、母子の絆を確立する上でもとても重要です。授乳により心理的に母子の絆が強くなります。

母乳栄養にはさまざまなメリットがある

母乳栄養を行うと、お母さんは多くの病気になるリスクが減少します。糖尿病、肥満、メタボリック症候群、消化器炎、気管支喘息、アレルギーなどに効果があります。たとえば、妊娠糖尿病の妊婦さんは将来健常人の7.43倍の頻度で糖尿病になりやすいことが知られていますが、授乳期間が長いほど、その頻度が減少します。これは、お母さんは授乳することによりエネルギーを消費して、産後早く体重減少することと、健康管理への関心が深くて、喫煙率は低く、運動もよくし、より健康的なライフスタイルを取ることも影響していると思われます。

なお、お母さんが一部の感染症にかかっている場合や、服薬している薬の都合、赤ちゃんが小さく生まれた、赤ちゃんの体質の問題など、さまざまな事情から、お母さんが望んでも、母乳栄養で育てられないケースもあります。最新の人工乳(粉ミルク)は、母乳を参考に、赤ちゃんに必要な栄養素を満たすよう開発されています。母乳育児ができなくっても、お母さんは『おかあさん』です。母乳をあげるだけがお母さんの役割ではありません。胸を張って、たくさんの愛情を赤ちゃんに注いでいきましょう。