産後のうつ

Doctor:
増山 寿

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科

お産という一大イベントを終えると、生理的機能の変化に加え、女性としての役割や取り巻く環境の変化、育児ストレスなど、身体的にも社会的にも負担が増加しやすくなります。このため、からだが妊娠前の状態に戻るまでの6~8週間(産褥期(さんじょくき))は、ストレス負荷によりさまざまな精神障害を発症しやすく、これまであった精神疾患(しっかん)の再発も増加する時期です。

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マタニティブルーズ

産後すぐにおこる一過性の情動障害です。急激な性ホルモンの減少などの身体的・生理的機能の変化にともなう、抑うつ感と涙もろさが特徴です。産後2~3日目頃より、数時間から数日間継続する生理的反応と考えられています。30%程度に発現し、約5%は産後うつ病に移行するため、注意が必要です。通常は治療しなくても発症から数日でよくなるため、基本的に経過観察でよく、周囲のサポートがあれば大丈夫です。ただし、症状が1 週間以上持続する場合は注意が必要です。

産後うつ病

産後うつ病は10~15%と高頻度(ひんど)に発症し、発症時期は早ければ出産後1 ~ 2 週間です。母子健康手帳に「精神的健康セルフチェック」として記載されているので、参考にしてみてください。判定方法として「エジンバラ産後うつ病自己調査票」がよく用いられます。9点以上を「疑いあり」とし、希死念慮(きしねんりょ)(死にたくなる気持ち)や日常生活が困難な場合には、精神科での治療が必要となります。実際に精神科受診が必要なのは、9点以上のうち約10%です。産後うつ病はお母さんがつらいだけでなく、母子間の愛着形成(あいちゃくけいせい)を損(そこ)ない、育児機能や赤ちゃんの発達に影響を与え、虐待(ぎゃくたい)のリスク因子(いんし)のひとつとされています。赤ちゃんのためにも、家族の協力のもと精神的・肉体的サポートを受けることが大切です。

For Men

家族の支えが大切

妊娠・出産という自分自身の急激な精神的・肉体的変化と、新たなメンバーが加わった家族環境に慣れるには誰でも時間がかかります。家族の精神的・肉体的な支援が大切です。また、かかりつけの先生や看護スタッフ、地域の保健師さんに相談することが、負担を減らすきっかけとなることもあります。遠慮せず相談してみましょう。