人生後半の相談相手を持とう

Doctor:
髙松 潔

東京歯科大学市川総合病院産婦人科

閉経は人生の折り返し地点であり、チェックポイントです

現代の日本人女性の平均寿命は約86歳で、世界一の長寿を誇っています。一方、女性のライフステージのうち、性成熟期と老年期の間には更年期(こうねんき)がありますが、それを規定するのは閉経(へいけい)です。閉経年齢は約50歳といわれていますから、日本人女性では人生の3分の1以上が閉経後ということになります。つまり、閉経は人生の折り返し地点なのです。この時期は加齢や閉経にともなうエストロゲンの低下により、心身の各所に変化がおきます。がんのリスクも上がりますし、生活習慣病も増えます。いつまでも変わらずに元気にありたいというのは万人の願いですが、残念ながら現実には歳を取ってしまいますから、若い頃に比べて自分が思っているよりも心身ともに変化しています。後半の人生を楽しく生きるために、一度この時期にヘルスチェックをして、メンテナンスをしておきましょう。

お産じゃなくても産婦人科へ

自分のからだがどういう状態なのかは、検査をしてみないとわかりません。中高年ではいわゆる高脂血症や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)も増えてきますから、がん検診だけではなく、コレステロールや骨量(こつりょう)のチェックも重要です。もちろん人間ドッグなどでもいいですが、婦人科でも全身をチェックできます。「産婦人科はお産以来行ってない」という人も少なくないと思いますが、「産婦人科は女性のライフパートナー」ですから、女性の全身に気を配ることができるのです。一度だけでなく、定期的に診てもらうことも重要です。自分では気がつかない変化に気づいてもらえるからです。

頼れる「かかりつけ医」を

検診の結果によって注意すべきことが明らかになったり、治療が必要になったりした場合、病院を受診することになります。ずっと継続して相談できるところ、つまりかかりつけ医がいいのではないでしょうか。あなたの既往歴(きおうれき)や家族のこともわかっているかかりつけ医は、歌の文句ではありませんが、ナンバーワンでなくても、あなたにはオンリーワンのはずです。以心伝心、かゆいところに手が届くとまではいかなくても、最適な助言をしてくれるでしょう。インターネットからも多くの情報を得ることができますが、古かったり偏(かたよ)った情報だったりと玉石混交(ぎょくせきこんこう)です。人間は個人によって状況が違いますから、ネットの情報はあなたに合った対応法でない可能性もあります。この意味でもかかりつけ医は頼りになるはずです。

我慢より相談!

日本人女性の特徴のひとつに「大和撫子(やまとなでしこ)」という言葉が使われることがあります。可憐(かれん)で繊細(せんさい)だが、心は強いなでしこの花に見立てての表現です。心が強く、我慢強いというのは美徳ではありますが、やせ我慢はいけません。ときには頼ることも必要です。「産婦人科は敷居(しきい)が高くて…」という意見もありますが、そんなことはありません。もっと気軽に相談してください。私たち産婦人科医はいつでも待っています。産婦人科の一分野に「女性医学」という新しい領域があります。生活の質(QOL)の維持向上のため、女性に特有の疾患(しっかん)を予防医学の観点から考えるものです。発病しないように対処する、もし発病したら重症になる前に対応する方が大事に至らないことは誰にでも理解できると思います。「こんなことで受診していいの?」と躊躇(ちゅうちょ)する前に、まず受診してほしいというのが私たちの本音です。

若く美しくあるために「女性医学」を味方につけて

誰もがいつまでも若く美しくありたいと思うものです。食事や運動に注意することはもちろん重要ですが、多くの健康法やサプリメントが提案されています。中には効果が実証されていないものも含まれています。かかりつけ医では効き目があることが研究で確かめられているものを中心におすすめしますが、偏見や誤解からなかなか普及しない方法もあります。たとえば、更年期(こうねんき)の諸症状には低下したエストロゲンを補うホルモン補充療法(ほじゅうりょうほう)(HRT)が有効です。以前にHRT は乳がんを増やすという報告がありました。しかしその後、5 年までであればリスクは上昇しないこと、また5年以上でもアルコールや脂肪摂取、喫煙などによるリスク上昇よりも低いことが明らかになっています。お肌などのアンチエイジングにも効果があり、気持ちの面からも美しくなれるといわれています。このように、素敵な老年期を迎えるためにいい方法がたくさんあります。あなたの希望に合った効果のある方法は必ず見つかるはずです。

ケ・セラ・セラも重要です

歳を取るにつれ、いろいろなことがおきてきます。それらに誠実に対応することはもちろん大切ですが、どこかに「ケ・セラ・セラ(なるようになるさ)」と考える気持ちを持つ余裕も重要です。いわゆるこころの健康(メンタルヘルス)の管理です。そのためのサポートも産婦人科医ができると思いますよ。決してひとりで悩まないでください。

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