女性のがん、遺伝するの?

Doctor:
片渕秀隆

熊本大学大学院生命科学研究部産科婦人科学

2013年5月14日のニューヨークタイムズ紙にハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリー氏の寄稿(きこう)「私の医学的選択」が掲載され、タイム誌でも大きく報道されました。彼女は、BRCA1という遺伝子に異常がみつかったことから、予防的に両側乳房の乳腺切除(にゅうせんせつじょ)を受けたことを公表しました。一般にがんの発生には、環境やホルモンなど多くの因子が関与しています。その一方で、遺伝的な要因がはっきりしている「遺伝性がん」の存在が知られ、がん全体の5~10%を占めています。婦人科での代表的な遺伝性がんとして、「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」や「リンチ症候群」などがあります。

climacteric_7_01

遺伝性乳がん・卵巣がん症候群とは…

「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」の発症と関連する2 種類の遺伝子が発見され、BRCA1 遺伝子・BRCA2遺伝子と名づけられました。これらの異常によって発症するがんは、乳がんや卵巣がん全体の1割を占(し)めています。日本人女性が生涯のうちに乳がんを発症するリスクは8%、卵巣がんは1%とされていますが、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の女性の場合、乳がんが41~90%、卵巣がんは8~62%と高率になります。

遺伝子検査とカウンセリングとは…

検査によってBRCA1遺伝子・BRCA2遺伝子に異常が認められた場合、医学的な管理がすすめられる根拠となります。その後の検査や予防、治療法としてどのような選択肢があるのか、専門医による遺伝カウンセリングでくわしい話を聞くことができます。患者さんの既往歴(きおうれき)や家族歴などの聴き取りを詳細にし、関連するがんの発症リスクの評価を行います。それぞれの患者さんの背景や状況を十分に配慮した上で、予防的に乳腺あるいは卵巣・卵管の切除を検討する場合もあります。次の条件にあてはまる場合には、産婦人科や乳腺科、遺伝カウンセリングの受診がすすめられています。

  1. 患者さん本人が50歳以下で乳がんを発症した場合
  2. 両側あるいは片側の複数箇所に乳がんがみられた場合
  3. 家系内に50歳以下で乳がんと診断された血縁者がいた場合
  4. 家系内の血縁者に卵巣がんの発症がみられた場合
  5. 乳がんに加えすい臓がんや子宮体がんなどを重複して発症した場合