卵巣(らんそう)は子宮(しきゅう)につながり、左右2 つある親指の先くらいの大きさの臓器です。女性ホルモンの分泌(ぶんぴつ)、排卵(はいらん)や妊娠に欠かせない、女性にとって重要な臓器です。この卵巣に発生した腫瘍(しゅよう)を「卵巣腫瘍」、その中で悪性腫瘍を「卵巣がん」と呼びます。卵巣腫瘍には非常に多くの種類があり、また良性腫瘍と悪性腫瘍の中間的な性格を持つ「境界悪性腫瘍」もあります。それぞれのタイプによって治療や管理も異なるため、一般の人にとって卵巣腫瘍は理解しにくい、難しい病気となっています。
卵巣がんは当初は無症状のため、サイレントキラーと呼ばれます。おなかが張る、最近太ったとの訴えや、超音波検査で骨盤(こつばん)内の腫瘤(しゅりゅう)として発見されることもあります。閉経(へいけい)後の高齢女性に多いですが、若い女性も無関係ではありません。卵巣腫瘍には「表層上皮性・間質性腫瘍」、「性索間質性腫瘍」、「胚細胞性腫瘍」の3つのグループがあります。胚細胞性腫瘍は、主に10代の小中学生から20 代の女性に発生します。多くが良性の奇形腫(きけいしゅ)ですが、まれに悪性腫瘍が発生します。卵巣がんの5% 程度が、悪性の胚細胞性腫瘍です。このタイプの卵巣がんは抗がん剤がよく効き、妊娠できる機能を温存して治療することもできます。
卵巣がんの5%程度は遺伝が原因であることがわかってきました。遺伝性(いでんせい)乳がん卵巣がん(HBOC)という病気が有名です(女性のがん、遺伝するの?参照)。主に乳がんの原因遺伝子(BRCA)の異常で発生し、通常より若い年齢で表層上皮性・間質性腫瘍である漿液性腺(しょうえきせいせん)がんなどが発生します。親子や姉妹に若くして乳がんや卵巣がんになった人がいた場合は、注意が必要です。
良性の卵巣腫瘍ががん化する場合もあります。特に最近、日本において子宮内膜症による卵巣チョコレート嚢胞(のうほう)(若い女性のトラブル②子宮内膜症参照)ががん化することが知られてきました。このがん化によって発生する明細胞腺(めいさいぼうせん)がんというタイプは抗がん剤が効きにくいことも知られています。チョコレート嚢胞は小さければ低容量ピルなどの薬物療法を行い、経過を観察します。閉経周辺期以降や若くても10cm 以上の大きな嚢胞の場合は、がん化を予防するために手術による摘出(てきしゅつ)を考えなくてはなりません。
卵巣がんは決して頻度(ひんど)の高い病気ではありませんが、若い女性にまったく無関係な病気ではありません。婦人科疾患(しっかん)によくある不正出血などの症状が出にくい病気ですので、より注意が必要ともいえます。