持病のある人の妊娠(合併症(がっぺいしょう)妊娠)を成功させるためのキーワードは「計画妊娠」です。 病気を持ちながらの妊娠には、どのようなリスクがあるでしょうか? 整理すると次の4つを挙げることができます。
1~3のリスクを避けるためには、お母さんの病気をしっかり治療することが大切です。しかし、4のリスクが気になってお薬の使用をためらい、病気を悪くしてしまっては、出産や育児がうまくいくはずがありません。妊娠・授乳中のお薬についての不安があれば、「妊娠と薬情報センター」をご覧ください。相談方法も書かれています。
妊娠と薬情報センター : http://www.ncchd.go.jp/kusuri/
妊娠・出産する時期の女性に多い病気で、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(そがいやく)(SSRI)やベンゾジアジピン系薬剤などで治療します。これらのお薬は胎盤(たいばん)ができる妊娠中期以降は、お薬が赤ちゃんに移行します。そのため赤ちゃんが生まれた直後に自分で呼吸ができないとか、しばらくしてお薬が切れたことによる新生児薬物離脱(しんせいじやくぶつりだつ)症候群がみられることがあります。ですから、可能であれば妊娠前にかかりつけ医に妊娠希望を伝えて、お薬の種類や量を減らすことを医師といっしょに試みられるのがいいでしょう。それができない場合には、生まれたばかりの赤ちゃんをしっかり観察できる医療機関での出産をおすすめします。
抗てんかん薬の中には赤ちゃんへの影響を心配しなくてはならないものもあり、薬剤の使用方法に注意と工夫が必要です。かかりつけ医とよく相談して、お薬を調整していくといいでしょう。一番優先すべきは、てんかん発作をおこさない、ということです。かかりつけ医とよく話し合ってから妊娠に臨みましょう。
抗リウマチ薬を上手に使えば、寛解状態(関節炎がない状態)にできる可能性の高い病気です。「妊娠を希望しているから抗リウマチ薬は使いたくない…」と考える女性もいます。リウマチの治療と妊娠・出産を両立させるコツは、安全性の高い抗リウマチ薬を上手に使うことです。リウマチは妊娠すると「妊娠というお薬」により軽くなります。産後は早めの抗リウマチ薬の再開をおすすめします。母乳栄養と両立できる抗リウマチ薬も多くありますので、「自分が痛みを我慢しさえすればいいのだから」と、やせ我慢は禁物です。
SLEは全身の炎症をおこす病気で、ステロイド剤や免疫抑制剤(めんえきよくせいざい)で治療します。SLEも炎症が完全にとまった寛解(かんかい)状態で妊娠することが重要です。ただ、リウマチと違って寛解状態といっても完全に火種が消えていないことが多いので、妊娠中もステロイド剤、場合によっては免疫抑制剤を継続する必要があります。寛解状態であっても、腎機能が低下している、肺高血圧症があるなど、重大な内臓の障害がある場合は、妊娠をすすめられません。抗SS-A抗体や抗リン脂質抗体という特殊な物質を持っている場合には、特別な注意を要します。ほかにSLEそのものが妊娠中に悪化するケースもありますので、経験の多い医師や施設で管理してもらう方がいいでしょう。
自己抗体である甲状腺刺激(こうじょうせんしげき)ホルモン(TSH)受容体抗体が原因で甲状腺ホルモンが過剰に産生される、すなわち「甲状腺機能亢進(こうしん)状態」となる病気です。甲状腺機能亢進状態で妊娠した場合には、流産・早産や妊娠高血圧症候群の頻度(ひんど)が増えるので、お薬などで甲状腺機能を正常化(寛解)させてから妊娠する必要があります。お薬の中には赤ちゃんの形態異常のリスクが疑われているものがあるので、かかりつけ医と相談して計画妊娠しましょう。バセドウ病の元となるTSH 受容体抗体は胎盤を通過します。寛解状態にない場合や寛解状態であっても手術やアイソトープ治療後の場合は、お母さんのからだでTSH受容体抗体が産生され、赤ちゃんにバセドウ病と同じ症状(頻脈(ひんみゃく)や甲状腺腫(こうじょうせんしゅ)など)がでる可能性があるので、経験の多い医師や施設で管理してもらう方がいいでしょう。
「慢性甲状腺炎(まんせいこうじょうせんえん)」ともいって、甲状腺の慢性炎症を生じ、「甲状腺機能低下症」の原因となる病気です。この病気の体質を持つ女性は、決して少なくありません。治療を必要とする甲状腺機能低下症かどうかが重要です。甲状腺機能低下症は、機能低下が軽度であっても不妊の原因や流産の原因になるので、妊娠を希望する場合は、あらかじめ甲状腺機能を十分にコントロールすることが大切です。