セックスって何のため?

Doctor:
木村 正

大阪大学大学院産科学婦人科学講座

ヒトはなぜセックスをしたくなるのでしょう?愛しているから?もっと相手を知りたいから?気持ちいいから?大昔から愛し合っている2人がセックスをすることは自然で、2人が結ばれるためにいろんなドラマがあり、絵画や文学のテーマになってきました。エッチなビデオなどをみると、気持ちいいことを求めるためにセックスをする、というのが当たり前のように描かれています。

しかーし!! こんなことをいろいろ考えてセックスをするのは、脳みそがすっごく発達した人間とごく一部のおさるさんだけです。セックスの本質は「子孫を残す」、つまり子どもをつくるための行為です。だから、セックスは成熟(せいじゅく)した2 人が「この人の子どもなら産んでもいい」、「この人との間にできた子どもなら責任を持って育てたい」と思う相手とだけにする行為だと思います。

どうして子どもができるために男と女が必要なの?

自分と同じ遺伝子(いでんし)を複製して子孫をつくっている大腸菌(だいちょうきん)などのばい菌(きん)ですら、周りの環境が悪くなると、近くにいる大腸菌とつながって遺伝子を交換して、違う環境でも生きていけるような新しい子どもをつくります。どうも、生き物すべてが自分とまったく同じ遺伝子をもった「子ども」はとっても弱いことを知っていて、遺伝子のやり取りをして「自分と似ているけど同じではない」子どもをつくる方が、生き残りに有利なことを知っているようです。人間やほかの動物たちはその遺伝子のやり取りを、男の精子と女の卵子が合体することで行っています。そもそもほかの動物たちには妊娠するのに適した「発情期(はつじょうき)」という時期があって、そのとき以外はセックスをしません。でも、人間はいつでもセックスをすることができます。

人間はセックスをすると、どれぐらい妊娠するのでしょうか?

ある研究では子どもがほしいカップルに排卵日(はいらんび)を狙(ねら)ってセックスしてもらうと、6回排卵を経験するまでに8割の女性が、12回排卵を経験するまでに9割の女性が妊娠しました。1回目では3割の女性が妊娠しています。また、排卵日を考えずにセックスを普通にすると(アメリカでは平均週に2回、曜日を決めないですることを普通、としているようです)1年間で85%の女性が妊娠する、といわれています。人間はほかの動物より妊娠しにくいといわれていますが、それでも排卵日の頃にセックスを1 回すると2~3割は妊娠するのです。

こんなに次々妊娠しては、女性は困ってしまいます。だから人間は避妊法(ひにんほう)を大昔から考え、現代の医学ではいろんな安全な方法が実用化されているのです。セックスをする、そこまでは男女が平等だと思います。でも、その結果、妊娠してからだに負担がかかるのは、絶対に女性です。女性は常にそのことは意識して、自分のからだを守らないといけません。その具体的な方法については、確実な避妊法を教えて!で説明しています。

For Men

エッチなDVD・ネット・本(エッチ媒体)でのセックス

セックスは本来2 人で行う、とてもプライベートな行為(こうい)です。でも、他人のセックスの様子をみてみたい、という願望は昔からあるようで、日本では江戸時代の「春画(しゅんが)」というものが有名です。現在流通しているエッチ媒体(ばいたい)の問題点は、いくつもあります。

まず、そこにでている女性も男性も「お金のため」に演技(えんぎ)をしています。あくまで「演技」でほかの人にお金を払ってもらうためのセックスです。君たちがお金をもらわずにクラスで劇をやって、「すごく」なくても誰も文句を言いませんが、お金をもらってセックスをするからには「すごく」ないと売れません。当然やっているセックスは「普通はしない」「普通はありえない」ことをみせるのです。だから「自分たちでやってみよう」なんて思っても、それは無理なのです。

もうひとつ問題なことは、腟外射精(ちつがいしゃせい)があたかも避妊法(ひにんほう)として当たり前のように描かれていることです。腟外射精の妊娠率は1年間100カップルあたり約20とされています。5組に1組は妊娠するわけでこのような方法はとても安全な避妊法とはいえません。ちなみにコンドームも100カップルあたり14、すなわち7組に1組は1年経ったら妊娠していることになります。若くて経験の少ないカップルは、これよりさらに妊娠率が高くなるといわれています。ですから、絶対に腟外射精は信用しないでほしいのです。

2人の世界をつくる第一歩は相手を思いやる、相手のいやがることはしない、相手を危険な目に決してあわせない、ことです。お互いの心とからだを守るために、現実と、お金でつくった仮想世界をごちゃまぜにしないようにしてください。