あなただけじゃない!「骨盤臓器脱」

Doctor:
清水幸子

医療法人鉄蕉会亀田メディカルセンター 亀田京橋クリニック

「骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)」という、女性特有の病気があります。女性ホルモンの低下による加齢現象、お産の回数が多い、便秘でいきむことが多い、体質的な要因などが原因で、骨盤底(こつばんてい)の筋力が低下します。それによって骨盤の中にある子宮、膀胱(ぼうこう)、腸などの臓器がしだいに下垂してきて、最終的に腟を通って腟壁(ちつへき)といっしょに体外に脱出してくる。この病気の総称が骨盤臓器脱です。性器脱ともいいます。

不快な症状。それは骨盤臓器脱かも?

お産のために産道としての腟が存在する女性特有の病気で、体外にでた臓器の種類によって「子宮脱(しきゅうだつ)」「膀胱瘤(ぼうこうりゅう)」「直腸瘤(ちょくちょうりゅう)」などと呼びます。複数の臓器が同時に下がってくることもあります。子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)などで以前に子宮を手術でとられた人にも、腟壁が下がってくる「腟断端脱(ちつだんたんだつ)」が発生します。骨盤臓器脱の症状にはさまざまなものがあります。股(また)から何かがでてきている、入浴中にピンポン球のような柔らかい腫瘤(しゅりゅう)を触れる、尿がでにくい、残便(ざんべんかん)感がある、おなかの張りや牽引感(けんいんかん)、完全に脱出してこすれて出血している。これらは骨盤臓器脱の症状です。「外出もままならないのに…」「恥ずかしいから…」「どこを受診していいかわからないから…」と、ひとりで悩まれている人も少なくありません。骨盤臓器脱は、出産経験のある中高年女性がかかりやすい病気で、米国では女性の10 人に1 人が生涯のうちに骨盤臓器脱もしくは尿失禁(にょうしっきん)の手術を受けているといわれています。悪性疾患(しっかん)のがんのように直接生命を脅かす病気ではありませんが、さまざまな症状が現れて日常生活の質に大きな影響をおよぼします。この病気が治療可能な病気であると知らずに、「年だから…」と我慢している女性のなんと多いことでしょう。

骨盤臓器脱の治療法

骨盤臓器脱にもさまざまな治療方法があり、その程度やライフスタイルに合わせて、治療法の選択があります。程度の軽い人は、便秘や肥満への注意や、骨盤底筋体操(こつばんていきんたいそう)も有効です。しかし、一定以上に進行し症状がある人は、骨盤臓器脱を根本的に治療するために、手術療法が必要です。骨盤臓器脱手術にもいくつかの方法があり、その人の年齢や体力、程度などで医師と相談しながら選択していきます。また、手術を希望されなかったり、内科的合併症(がっぺいしょう)で手術が適さない人には、ペッサリーというリング状の装具を腟内に挿入する方法や専用の下着の装着などの、手術をしない治療方法の選択もあります。